Column
2016-10-26(Wed)
2016年10月13日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントから、仮想現実(VR)システム「PlayStation VR」が発売され、手に届く価格で本格的なヴァーチャル・リアリティを体感できるようになりました。
その数日後には、コンタクトレンズに様々な映像やデータを表示できる、拡張現実(AR)用スマートコンタクト開発のニュースが流れました。映画などで見る、視界に目の前にいる人の名前、天気予報、広告…が表示されるシステムです。
というように、どんどんSFが現実化してきています。ここまで進化が進むと、今後は人工知能(AI)が人間を支配する、「ターミネーター」や「マトリックス」のような世界も現実になってしまいそうな不安を覚えた方も多いのではないでしょうか?
それが今回のテーマである2045年問題。人工知能は人間を超えるのかーー。私たちの生活や仕事に大きなインパクトを与えそうな人工知能について考えます。
人工知能(AI=Artificial Intelligence)とは、「学習、推察、判断といった人間の知能をコンピュータで人工的に実現する技術」のことで、研究自体は50年以上も前から行われていました。その間、1950年代の人工知能誕生期、1980年代のエキスパートシステム期と2回のブームがありましたが、盛り上がった割には大きな成果がありませんでした。しかし現在の第3次人工知能ブームは出だしから大きな成果が続いています。その理由はいくつかあります。
IBMはパソコン製造から手を引いた後、人工知能研究に力を入れ、画像認識や言語認識などに優れた、コグニティブ(認知)型の人工知能「ワトソン」を開発。チェスやクイズの世界王者に挑戦したり、料理のレシピブックをつくってみたりと、PR活動に熱心で、人工知能に大きな関心を呼ぶことに成功しました。これは学者だけが研究していたら起こらなかったでしょう。
「ワトソン」の次の世代にあたる、ディープラーニング(深層学習)型の人工知能が今回のブームの主役と言われます。その特徴は人工知能が自分でルールをつくること。たとえばその代表的存在、チェスや将棋よりはるかに難しいとされる囲碁の世界チャンピオンを破ったGoogleの「AlphaGo(アルファ碁)」で見てみましょう。今まではまず囲碁の駒の置き方といったルールや、専門家に聞いた戦術(エキスパートシステム)を人工知能に入力していたのですが、それだと手間がかかります。そこで、囲碁での勝利という目的だけ与えて、碁のルールを教えず、過去の囲碁の棋譜を大量に認識させ、人工知能同士の対戦で学習させたのです。この技術は応用が効くため、多くの企業が競って開発しています。
ディープラーニングが可能になった要因には、ハード機器の劇的な進化もあります。クラウドにデータを送るスマートフォン、膨大なデータを保管できるクラウドネットワーク、処理速度の速くなったコンピュータと、開発が進みやすい環境ができあがっています。
Apple、Google、IBM、Facebook、Amazonといった収益力の高い企業が、AppleのSiriに始まり、競って人工知能開発に投資しています。社員数人のまだ実績を上げていないベンチャー企業の値段が吊り上がり、数百億円になることさえあります。この資金力と競争は開発のスピードを大きく上げています。
ディープラーニングが得意なのは、「画像認識」「音声認識」「言語認識」。まだ開発・テスト段階なので、ここから2020年あたりにかけて、一気に社会に浸透すると言われています。
ディープラーニングの問題点はというと、「人間のコントロールを外れる」ことです。特徴として、ルールを人工知能自身に決めさせるので、当然そうなります。実際、囲碁用のアルファ碁は対戦中、人間には理解できない手を打っていくことがあったようで、今後社会のインフラ、鉄道や電気・ガスなどの活用に人工知能が使われた場合の危険性が指摘されています。
それを以前から指摘していたのが、レイ・カーツワイルという人工知能研究の世界的権威です。「人工知能が全人類の知能の合計を超える」ポイントを「シンギュラリティ(特異点)」と呼びますが、彼は「2045年には、人工知能によって一年間に創出される知能量は人類の全知能よりも約10億倍も強力になる」と言い、「この時がシンギュラリティで、抜本的な変化が起こり、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまう」と断言しています。
彼は、2045年以降は人工知能が自分で自分をすごいスピードで発展させ、「人工知能を搭載したスーパーコンピューターが地球を支配する」と考えているようです。彼は現在、Googleに加わって「世界を覆う人工知能ネットワーク」の研究を進めています。「自分は死んだら人工知能ネットワークに入って生き続けるよ」とまじめに言うようなマッド・サイエンティストの香りがする人なので、ちょっと怖いですね。
一方で、きちんとコントロールしていれば、人工知能が暴走する危険性は低いと言う専門家も多く、ここは議論が続きそうです。
2045年にはまだ30年ありますが、その手前で、もう始まっている人工知能の影響もあります。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授が発表した、「今後10~20年でアメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」という論文です。世の中にある702の職種が今後コンピュータ化してどれだけ自動化されるかを分析したアカデミックな論文で、世界中に衝撃が走りました。
Googleの創業者でCEOのラリー・ペイジはもっと辛い予想をしています。「あなたが望もうが望むまいが、近い将来、現在の仕事の9割が機械によって置きかえられる」と。
どんな仕事がなくなっていくと言われているのか見ていきましょう。
出典:NIKKEI STYLE
http://style.nikkei.com/article/DGXMZO89795300X20C15A7000000?channel=DF130120166018&style=1
要するに、仕事をマニュアル化できるものは、人工知能とロボットにとって代わられるということです。この論文では高度な人工知能は考慮されていませんので、もっと早く、もっと広い範囲でとって代わられる可能性があります。
18世紀の産業革命で手工業が機械に代わり、19世紀の第2次産業革命で工場労働者などのブルーカラーの仕事が減りました。今回は、ホワイトカラー、今まで安泰だったオフィスワークをしている人たちの仕事を直撃するのが特徴です。
ただ、日本では少子高齢化による人口減少が問題視されていますので、それを補う解決策としても期待されています。
2045年問題を議論している間に、実は人工知能はすでに職場や家庭に入ってきています。
日本の人工知能市場は既に4兆円近いという調査もあり、ファーストフード業界や防衛業界ほどの規模です。代表的なものを見ていきましょう。
人工知能の実力が世の中に知られるきっかけとなったアップルのSiri(シリ)。自社開発ではなくベンチャー企業を買収して実現した機能で、音声認識アシスタントが広く普及することになりました。
ビジネス系では、IBMの「Watson(ワトソン)」が、三井住友銀行などのコールセンターに導入されています。顧客の質問内容を音声でリアルタイム解析して返答のための情報を表示するシステムで、将来的には人を介さず人工知能が音声で答えるようになっていくでしょう。
恋愛相談も下ネタもOKの人工知能で人気の「りんな」。今、各社が導入を進めている言語認識機能を使ったチャットボットのひとつで、雑談型というのが特徴です。通常はたとえば目的のWebサイトを探すなどの目的があるものですが、りんなは会話自体が目的という珍しい人工知能です。今後はネットショップの商品を勧めたりするのか、ロボットに搭載されるのか、その方向性も注目されています。
医療分野にも人工知能が導入され始めています。これもワトソンの事例ですが、東京大学医科学研究所の人工知能が2,000万件以上の研究論文や、1,500万件以上の薬の特許情報を学習して、患者の遺伝子情報を解析、医師でもわからなかった二次性白血病を10分で見抜きました。
金融業界も人工知能が早くから導入されている業界です。株式価格、出来高、各国の経済データ、決算書など、膨大なデータを分析して市場予測を行い、人間にアドバイスします。さらに、まったく人が関わらない自動売買も行われています。2013年には3億円の所得隠しをしたサラリーマンが、人工知能でFXの自動取引をして儲けていたと話題になりました。
今まで人工知能が苦手だとされていたクリエイティブな仕事でも、導入が進んでいます。AP通信は企業の業績報告の記事を人工知能に任せ、人間の10倍以上のスピードになったとか。小説や映画脚本を書いたり、映画の予告編をつくったりする事例まで登場しています。クリエイティブな分野でも、定型化しやすいものは人工知能化が進みそうです。
現在、ファーストフード業界と同程度の市場規模という人工知能。EY総合研究所の予測では、2020年には24兆円で外食産業と同規模になるとされています。
大げさだと笑うことはできません。まず、2020年には自動運転が実用化されている予定です。まず高速道路でのトラックから、バスやタクシー、そして自家用車へと進むでしょう。ハンドルもアクセルもブレーキもない車で、操作を司るのは人工知能です。もうテストは日本でも始まっています。
画像認識機能を活用した、店舗での自動レジも実用化が視野に入ってきました。万引きの監視などもカメラと連動して自動化されそうです。
あらゆるモノがインターネットに繋がるIoTが進めば、人工知能のエージェントが部屋の温度を調節したり、家電を操作したりという「スマートホーム」が実現しそうです。現在、この分野ではAmazonの「Echo(エコー)」と「Google Home」が激しく競っています。
医療ではレントゲンなどの自動診断、そしてロボット介護の研究が進んでいます。
発電所での発電量の調整予測や故障の自動監視などにも使われ、信頼性が確かめられれば、自動制御へと進むでしょう。
そうして、2030年には87億円と日本の国家予算規模にまで拡大すると予測されています。2045年にはいったいどんな社会になっているのでしょうか?
いかがだったでしょうか。
SFのような未来の話になるだけに、信じる人、信じない人に大きく分かれそうな人工知能の未来。今までの産業革命で職業や住む場所が大きく変わったように、人工知能によって今後10年、20年かけて社会が大きく変わる可能性が高そうです。
このコラムでは今後も、気になるけどよくわからない、今さら聞けない流行りのキーワードを定期的に更新していきます。
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